現地まで来た貯槽が、据え付けられなかった地獄

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LNG貯槽の据付は一大イベントである。
LNGサテライトの中でも飛び抜けて目立ち、10数メートルの高さを誇る。

この珍しい作業を見るため、客先のギャラリーが10~20人集まることも珍しくない。

夜明け前の暗い時間帯に大型重機を迎え入れ、朝からいよいよ作業が開始される。
トレーラーから数十トンの貯槽を、2台のクレーンを使ってゆっくりと持ち上げる。
貯槽は空中で立て起こしされ、親クレーン1台で吊り上げられ、据付位置までゆっくりと旋回移動していく。

貯槽の脚部が、基礎コンクリートから立ち上がっているアンカーボルトの真上まで来た。
すこしずつ慎重に、貯槽を吊り下げていく。
「スッ」
貯槽それぞれの脚部のベースプレートのボルト穴に、太いアンカーボルトが通った。

毎回この瞬間は緊張するものだ。1基目が無事に据わり、ひとまず安堵する。
同じ要領で、2基目も据付が完了。

ラストの3基目。
吊り上げた貯槽を、アンカーボルト目掛けてゆっくりと下ろしていく。

「ん…?」
それぞれの脚部に張り付いた担当から、「オーライ」の声が上がらない。
何度トライするも、アンカーボルトの位置が脚部のボルト穴と合わない。
まだ随分と残っているギャラリーも、「どうした?」と心配しだす。

冷や汗が止まらない・・・。
しかし、このまま据え付けることは不可能。

震える声で、貯槽を持ち帰らせていただくことをお客様に伝えた。
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貯槽の据付工事は、現地工事の中でももっとも費用がかかるうちの一つです。

貯槽を運ぶトレーラー、大型クレーン、クレーンの装備(ブームや重り)の運搬車両、作業員も10名を超える。
加えてギャラリーも多数。

リカバリー対応に要した時間とコストはかなりのものとなってしまいました。

目次

原因は、アンカーボルトのズレ。なぜそれが起きたのか

基礎からアンカーボルトが正しい精度で立ち上がっていなくては、貯槽の据付はできません。
上から吊り下ろして来た貯槽脚部のベースプレート穴に、アンカーボルトが「スッ」と通らなくてはなりません。

基礎工事は客先所掌、基礎完成後に上物工事としてプラントメーカーが乗り込む形です。
このケースでは「所掌またぎ作業」として、アンカーボルトのセットを先方の基礎業者へ依頼することになります。
そして、アンカーボルトの立ち上がりに許容範囲を超えたズレが生まれてしまいました。

なぜ、これが起こってしまったのでしょうか?

「言った」「伝えた」「書いてある」だけでは届かない

先方の基礎業者とは、数度の打合せを行っていました。
作業要領書にも手順が記載されています。
それでも、こちらの意図した形にはなりませんでした。

実際に作業するのは、目の前の担当者ではなく、その先の先の先にいます。
そこまで ”届ける” ことができていませんでした。

・この図面は、初見でも誤認されないような書きぶりになっているか
・要領書の特記は、パッと見てすぐに理解される表現になっているか
・図面以外で誤りを未然防止できる仕組みを用意できなかったか

このあたりが弱かったと言えます。

1. テンプレートには向きがある

アンカーボルトを基礎にセットするためには、テンプレート(仮設のガイド)を使用します。
このテンプレートは、一見すると左右対称のように見えます。
そのため現場では、「向きはどちらでも同じではないか」と誤認されることがあります。

2. 図面を見る基準が違う

工場の新築工事に合わせてLNGサテライトを建てる場合、建築工事を請け負うゼネコンが、LNGサテライトの基礎も担当することが多いです。
ゼネコン側には、建屋や各種設備の図面が存在しますが、PN(プラントノース)を基準とした表記になっていることがあります。

対してLNGサテライト側は、貯槽の正面を0°として表記されます。また、PNではなく実際の方角が記載されていることもあります。

ゼネコン側の作業者からすると、こちらの図面を見たときに誤認しやすいポイントです。

3. 特記は、読んでくれることを前提としない

所掌区分や要領書に書いてあっても、読み飛ばされることは多々あります。

本当に伝えたい大事なことは、見落とされないように読み手に配慮した工夫が必要です。
・写真を入れたり図示する
・色文字にする
・矢印を入れる
・よくある誤った例を載せる
・迷うような表現を用いない

書いて満足するのでなく、作業者まで届ける意識で表現することが大切です。

学び

誰しも、客先から渡された何十ページもの分厚い資料に「・・・」となったことがあることでしょう。
文章だけのモノクロ 1トーンで書かれた資料を隅から隅まで目を通すのは苦行です。

自分が読み手であったら、「なるほど」「分かりやすい」と思える内容になっているか。
この資料が次の人、さらに次の人へと渡った時に「本当に意図が伝わる」資料になっているか。
ミスが起こった場合に、中間でチェックしてリカバリーする仕組みがあるか。

今回の失敗は、アンカーボルトだけの話ではありません。
所掌の境目で、こちらの意図が実作業者まで届かなかった話です。

「伝える」とは何かをあらためて考えさせられた一件でした。

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この記事を書いた人

LNG業界で20年以上、営業・技術・PMとして全国50件以上のLNGサテライト導入に携わる。

営業、技術、建設、保安まで幅広い実務経験を持ち、現在はLNG燃転プロジェクトの事業支援・人材育成を行っている。

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